食道癌症例122例においてNY-ESO-1遺伝子の発現解析とTIL(Tumor Infiltrating Lymphocyte)の検討を行ったところ、18%の腫瘍でNY-ESO-1遺伝子発現が確認された。NY-ESO-1遺伝子を発現している腫瘍に対しては有意にCD4+T細胞およびCD8+T細胞浸潤が多く、食道癌全症例でみると、予後良好な傾向が見られた。さらに病期IIIおよびIVの進行食道癌ではNY-ESO-1遺伝子発現陽性症例は陰性症例と比較して有意に予後良好であった。一方、膵癌において発現低下が悪性度増大につながることが判明した、血管新生阻害因PEDF(Pigment Epithelium-Derived Factor)の遺伝子発現解析を行ったところ、食道癌症例でも、同遺伝子の発現低下がリンパ節転移の頻度を増大させることが判明した。この結果を基に、PEDF遺伝子治療が可能であると仮説を立て、PEDF発現ウイルスベクターを構築した。先に行った膵癌の検討では、PEDF感染細胞は、血管内皮細胞の増殖と遊走を有意に低下させ、マウスに移植した腫瘍の増大を抑制することが明らかになった。さらに、同腫瘍においては微小血管密度が有意に低下していることが示された。この検討を食道癌細胞株でも行ったところ、2種類の細胞株で全く逆の現象が観察された。TE8では膵癌同様に、マウスに移植した腫瘍の増大を抑制することが示されたが、HEC46では全く抑制されなかった。しかし、TE8を皮下に2度移植して得られた高生着株であるTE8-S2ではHEC46同様の結果が、HEC46から得られた高生着株HEC46-S2では野生型のTE8と同様の結果が得られた。
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