研究概要 |
本研究では、脳虚血により細胞死に陥った後の線条体および皮質において、成長因子投与によって内因性神経幹細胞を賦活化することで神経再生が得られるか否かを検討することを目的とした。研究開始当初は、ラットの中大脳動脈閉塞による脳梗塞モデルにて線条体における再生を検討する予定であったが、技術的な問題点に直面し、急遽全脳虚血モデルによる線条体損傷モデルに変更して解析を行った。 ラットにおいては9分間の一過性全脳虚血後には、線条体背外側部の神経細胞はほぼ完全に細胞死に陥ることを確認した。未治療群では4-6週後でも、内因性の神経再生は観察されなかった。一方、虚血後には側脳室近傍の神経幹細胞の増殖応答が7日目に最大に達することから、虚血後2日目より7日間EGF, FGF-2の脳室内投与を行い、6週後に組織学的評価を行った。その結果、対照群に比較して15%の有意な神経再生が得られた。これらの細胞の一部は、急性期に投与してBrdUを取り込んでおり、分裂して再生した神経細胞であることが分かった。成熟した神経細胞は、成熟した表現形を示しており、特に介在神経細胞のマーカーを発現するものが多かった。 一方、霊長類におけるモデルの作成も開始した。血管内カテーテルを用いて中大脳動脈起始部を3時間閉塞し、24時間後には十分な脳梗塞ができることを確認したが、個体差が多きくモデルとしての確立が困難であった。そこで、胸部血管を同様の手法にて一時閉塞する全脳虚血モデルの作成を個試みた。血管閉塞後に脳波は平坦化することからほぼ完全な虚血が誘導できていることを確認した。しかし、当初開始した20分虚血では侵襲が強すぎて個体の生存が得られず、現在は8分にまで時間を短縮し、モデルの生存率の改善を得ている。本モデルの確立は、今後の臨床応用に向けた研究の基盤となると思われる。
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