研究課題
神経幹細胞は、神経再生医療における移植のドナーとして期待されているが、そのまま移埴しても大部分がグリアへ分化して数%以下しかニューロンに分化せず、脳内で機能的なニューロナルネットワークを形成しない。この問題に対する解決法として、腫瘍抑制遺伝子の一種であるvon Hippel-Lindau (VHL)遺伝子を神経幹細胞へ導入し、その細胞を脳内へ移値することにより、極めて高率な生着率と機能的ニューロンへ分化誘導が可能なことを示してきた。脳内で約60%の細胞が生着してニューロンへ分化しており、そのうち約半数がTH陽性のドーパミンニューロンであった。また、行動解析にてapomorphine誘発回転を検討すると回転数の激減を認めたが、これに対し、VHL遺伝子を導入しない神経幹細胞を移値してもほとんどグリアへ分化してニューロンへの分化を認めず、行動解析にてもapomorphine誘発回転数の減少を呈さなかった。同様にVHL遺伝子導入神経幹死亡を移植した中大脳動脈閉塞の脳梗塞モデルラットや脊髄損傷モデルラットにおいても行動解析に改善がみられ、移植した多数の細胞が高率にニューロンへ分化していた。VHL遺伝子の神経幹細胞Aの導入によってニューロンへ分化する分子メカニズムに関しては、酸素が神経分化に必須であることが判明した。VHL遺伝子を導入した神経幹細胞は、パーキンソン病などの神経難病移値のドナーとして極めて有望と考えられるが、その後、皮膚幹細胞、骨髄間質細胞、脂肪幹細胞もドナー細胞候補になりうること、またVHL遺伝子導入ではなくVHLペプチド導入も可能であることも判明し、VHLの神経分化を担うドメインは、elonginBC結合部位のBC-box motifといわれる部分であることが判明した。更に、このBC-box motifを有する他の蛋白群のBC-box motifがやはり神経分化誘導活性を有することが判明し、これらの知見は神経再生医療に貢献しうる重要な知見と考えられた。このドメインのアミノ酸配列からなるペプチドを組織幹細胞へ導入しやすくするために、蛋白導入ドメイン(PTD)ペプチドと融合させて、ペプチドを合成した。体性幹細胞の培地中にPTD融合BG-box motifペプチドを添加し、神経分化が誘導されるかどうか、神経突起の伸長を形態学的に観察し、ニューロンマーカー(Map2,Tuj1,NeuN,NF)の発現を蛍光免疫染色、Western blot法、mRNAの発現をリアルタイムRT-PCR法にて検討し、また、VHL/SOCS-box familyと競合的に働くelongin A由来のペプチドが神経分化を誘導するか逆に阻害するかも検討した。この結果、BC-box motifペプチドのうち、VHL/SOCS蛋白由来のPTD融合BC-box motifペプチドは体性幹細胞へ導入すると約80種類すべてが、神経分化活性を示したが、elongin A群由来のBC-box motifペプチドは逆に神経分化を阻害した。これらの知見は、神経再生医療を実現するにあたり極めて有用と考えられた。
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