炎症反応を起こしにくく、単回投与で長期間安定した発現が可能であるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、各種脳神経疾患に対する遺伝子治療基盤技術の開発を行った。 ラット初代培養細胞では2型AAVは神経細胞に、5型AAVは星状膠細胞でより高い遺伝子発現が認められた。スナネズミ海馬における遺伝子発現様式は血清型およびプロモーターにより著しく異なり、CMVプロモーターを搭載した2型AAVではCA1領域を中心に発現がみられたが、5型AVでは海馬全体に強い発現がみられた。一方、RSVプロモーターを搭載した2型AAVでは錐体細胞層に、5型AAVでは顆粒細胞層に強い発現が認められた。 腫瘍細胞の系で、AAVベクターによる遺伝子導入においてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤FR901228の遺伝子発現増強効果を検討した。EGFPを発現する各種血清型AAVベクターをFR901228と共に培養上清に添加し、経時的にFACSにてEGFP陽性細胞率、発現強度およびウイルス受容体の発現変化を測定した。U251MG細胞株では2型、9L細胞株では5型AAVベクターの発現が増強され、発現増強は受容体非特異的と思われた。遺伝子発現はFR901228の量に依存して増強したが、細胞内に取り込まれたベクターのコピー数への影響は少なく、受容体の発現増強効果も軽度であったことから、転写の段階で発現が増強されたと推察された。 また、抗炎症性サイトカインであるIL-10をAAVベクター筋注法で動脈硬化疾患動物モデルに発現させ、その多面的作用を検討した。粥状硬化症モデルであるApoE欠損マウスでは、IL-10の体内発現により粥状硬化病変におけるMCP-1の発現が減弱し、動脈硬化面積が減少していた。この際、HMG-CoA還元酵素の産生制御によるコレステロール低下作用が示唆された。
|