グリオーマにおけるAktキナーゼの化学療法耐性への関与を検討する目的で培養細胞株U87MGにAktとestrogen receptorのキメラ蛋白を導入し、4-hydroxy tamoxifen(4HT)処理によるAkt活性誘導可能な細胞を作成した。Akt活性亢進に伴い化学療法剤処理後のG2期細胞周期停止は抑制された一方、集落形成能の増加も認めた。したがって、Akt活性亢進はグリオーマ細胞の化学療法剤による細胞周期停止を抑制しながら同剤に対する感受性を低下させることが示された。そこで、分子シャペロンの一種である90 kD heat shock protein (hsp90)は、Akt蛋白の安定化に関与することが示されているため、hsp90阻害剤geldanamycin (GA)、GA誘導体17-AAG(米国で臨床試験中)および構造の異なるhsp90阻害剤radicicolのグリオーマ細胞に対する効果を検討した。これらのhsp90阻害剤は低濃度で化学療法剤の細胞毒性を増強した。その作用機序については未だ詳細は不明であるがAktの活性化抑制によるものであることを示唆する知見を得た。一方、グリオーマに対する化学療法増感作用のあるスタウリスポリン誘導体UCN-01の効果発現機序にはG2チェックポイント阻害とAkt阻害の2つの可能性があったが、U87MG細胞を用いた実験から、UCN-01が化学療法剤の増強効果を示す最小濃度においてはG2チェックポイント蛋白のリン酸化抑制は認められたもの、Aktリン酸化抑制は認められず、UCN-01による化学療法剤増強効果の機序はChk1(G2チェックポイント上流の主要キナーゼ)阻害によるものとの結論を得た。本検討結果はAkt系以外にもG2チェックポイント機構が化学療法増感法開発のための標的として有力であることを示唆している。
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