研究概要 |
滑膜肉腫は長年原因不明の悪性肉腫であったが、1994年にClarkらがキメラ遺伝子SYT-SSXを同定したことから分子生物学的解析が急速に展開してきた(Clark, J., et al., Nature Genetics, 1994)。北大の当該研究室においては、平成13年度-平成14年度までの基盤研究(B)の成果としてSYT-SSXが癌遺伝子として機能することが細胞レベルで初めて証明されたが(Nagai, M., et al., PNAS, 2001)、本研究は、それまでの成果を発展させるため計画され、公募により科学研究費補助金の支援を受けたものである。 本研究において、SYT-SSXがクロマチンリモデリング因子BrmばかりでなくBRGとも結合し機能することが明かとなり(Genes Cells, 9,2004)、SYT-SSXがp21を誘導することでcellular senescenceを引き起こすことが証明された(Oncogene, 24,2005)。また滑膜肉腫細胞の増殖に関しては、IGF2による増殖刺激を伝達することが示された(Oncogene, 25,2006)。さらにシグナルアダプター分子Crkをノックダウンすることによって、滑膜肉腫細胞株の癌化能が著明に低下することが判明した(Mol.Cancer Res., 7,2006)。 本研究は、SYT-SSXを介する癌化のメカニズムを明かにするとともに治療法の開発も視野にいれた基盤研究であったが、成果の中でも特にCrk分子のシグナルを抑制することで、滑膜肉腫細胞は死滅することなく、その癌化能が選択的に抑制されたことは、治療対象としてCrkが十分標的となりうると考えられた。今後は本基盤研究の成果に基づきCrkシグナルを抑制する新規治療薬の開発を目指して研究を展開したいと考えている。
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