平成18年度までの研究で、diffusion chamberに前駆細胞と骨形成因子を入れラット皮下に移植し軟骨を形成する実験系における遺伝子発現をgeneChipにより解析し、早期から発現の上昇している遺伝子を同定した。さらに、これらの上昇した遺伝子の中から転写因子に注目し19個の遺伝子を候補遺伝子として選出した。これらの遺伝子のsiRNAによる発現抑制により軟骨基質分子であるアグリカンの発現を抑える作用の強い遺伝子を5個選出した。 平成19年度は、これらの遺伝子を強制発現することにより軟骨分化を促進するかを検証した。上記の5個の中で、抑制すると最も軟骨基質発現が押さえられたKLF9を候補とした。未分化間葉系細胞株C3H10T1/2細胞に、リポフェクション法でklf9遺伝子導入した。導入によりKlf9の発現上昇を確認した。こられの細胞におけるSox9発現上昇を調べたが、上昇は確認できなかった。軟骨基質であるアグリカンmRNA発現は、PCRでの増幅自体が、導入の有無にかかわらず認められなかった。従って、KLF9を強制発現しても未分化間葉系細胞の軟骨を促進しなかった。KLF9は共役する因子を必要とする可能性が示唆され、今後、他の因子と一緒に強制発現させるなどの研究を行う必要がある。また、未分化間葉系細胞を高密度培養することにより軟骨分化が促進されることを明らかにしたが、今後、この現象と遺伝子の関係を明らかにしたい。 我々は、人の軟骨欠損修復に骨髄間葉系細胞移植が有効であることを報告したが、さらに良好な修復を得るためには、間葉系細胞の軟骨への分化を促進させて移植する必要がある。間葉系細胞を軟骨へ分化させる遺伝子が明らかになれば、それらを導入した細胞を移植することにより、さらに良好な軟骨修復が得られる可能性が高い。
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