研究概要 |
神経原性肺水腫は、交感神経活動の亢進に伴い肺内血管収縮による毛細血管内圧の急激な上昇および肺内血管透過性亢進が生じる。本研究では、血管透過性の機序およびneuropeptide Y Y_3受容体を介する細胞骨格の変形との関連性について検討した。特に前者ではprotein kinase Cおよびmyosin light chain kinase、後者ではAbl tyrosine kinaseの関与が示唆されている。Abl tyrosine kinaseは、actin polymerationの活性化と核内における蛋白合成すなわち転写促進関係する蛋白リン酸化酵素で、Abl阻害剤の抗がん剤は現在臨床で使われている。併せて、neuropeptide Yが虚血部位の交感神経活動増加によって遊離され、neuropeptide Y Y_2受容体は血管新生(in vivo)に関わっている。本研究では、in vitroの血管内皮細胞の増殖実験系を確立した。ラットの大動脈内皮細胞を用いた。マイクロプレートの各ウェルに1000個の細胞を注入し、培養条件として酸素分圧を10、15、20%の3段階、neuropeptide Y処理後18時間と42時間後に細胞数をカウントした。その結果、特にneuropeptide Yの効果が強い条件として酸素分圧15%の低酸素状態で反応が強かったので、以後の検討にはこの条件を用いた。Neuropeptide Y,neuropeptide Y(3-36),peptide YYの細胞増殖に対する作用を比較検討した結果、低濃度のpeptide YY以外は、低酸素状態で細胞増殖を引き起こした。Neuropeptide Y,neuropeptide Y(3-36)は、二層性の増殖反応を示した。Peptide YYの反応は、高濃度領域では用量依存性に増殖させたが、低濃度領域ではまったく増殖させなかった。このようなことは、neuropeptide Yの血管内皮細胞の増殖増強作用が低濃度領域ではneuropeptide Y Y_3受容体を介するものであり、高濃度領域ではneuropeptide Y Y_2受容体を介するものであることを示唆している。血管内皮細胞増殖と血管透過性とは、neuropeptide Yの作用に関する限り、密接な関係があることが明らかである。
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