研究概要 |
低酸素状態ではミトコンドリアのATP合成酵素は逆転し、ミトコンドリア膜電位を維持するためにATPを消費する。ATPへの親和性はミトコンドリアATP合成酵素の方が細胞膜Na+,K+-ATPaseより10,000倍高いため、虚血により低酸素状態になると、ミトコンドリアは宿主細胞からATPを奪い、エネルギーを急速に枯渇させる可能性がある。また、宿主細胞がミトコンドリアより先に膜電位を失うと、電位勾配により細胞外Ca^<2+>がミトコンドリアに流入し、ミトコンドリアを破壊する可能性がある。虚血時にミトコンドリアのATP合成酵素がATPを消費し、細胞のNa+,K+-ATPaseがATPを使うことができなくなっているか調べるためには、ミトコンドリア膜電位とエネルギー産生状態(電子伝達系の停滞)の関係を同時に測定する必要がある。今年度は励起光源、及び蛍光測定系を改善し電子伝達系の状態(酸化還元状態)とミトコンドリア電位を同時に観察できるようにした。すなわち、励起フィルタ、受光フィルタ、電磁シャッター、電子冷却CCDカメラをパーソナルコンピュータで一括コントロールし10秒毎にNADH蛍光とミトコンドリア電位が同時に測定できるシステムを構築した。ミトコンドリア電位はミトコンドリア電位感受性色素をくも膜下腔に注入し測定した。ラットの左中大脳動脈を結紮すると電子伝達系が停滞した領域(NADH還元状態の領域)は急速に拡大していったが、ミトコンドリア電位の消失は虚血の中心領域でのみ観察された。このことより、ミトコンドリアは虚血辺縁領域でATPを消費し自らの膜電位を維持していることが示唆された。
|