研究概要 |
低酸素状態ではミトコンドリアのATP合成酵素は逆転し、ミトコンドリア膜電位を維持するためにATPを消費する。ATPへの親和性はミトコンドリアATP合成酵素の方が細胞膜Na+,K+-ATPaseより10,000倍高いため、虚血により低酸素状態になると、ミトコンドリアは宿主細胞からATPを奪い、エネルギーを急速に枯渇させることを1年目に発見した。ケミカル・プレコンディショニングを起こす薬剤であるDiazoxideはin vivoでミトコンドリア電位を低下させることを2年目に発見した。最終年度は短時間虚血によるプレコンディショニングがミトコンドリア電位と細胞膜電位に及ぼす効果を検討した。大脳皮質にミトコンドリア電位感受性色素(JC-1)を、2μl/分の速度で1分間注入し、大脳皮質の神経細胞に内にloadingした。キセノンランプで490nmの青色光を2秒間脳表に照射し、ミトコンドリア内に集積した色素を励起させた。脳表の赤色蛍光(590nm)、緑色蛍光(530nm)を電子冷却CCDカメラで撮影し、その比率から30μm×30μmの分解能で20秒毎にミトコンドリア電位を算出した。その結果、短時間虚血(2分間)により大脳皮質の細胞のミトコンドリア電位は低下傾向を示した。In vitroの研究では低酸素・低グルコースによりミトコンドリアが脱分極することは報告されていたが、in vivoの臨床に近い脳虚血では確かめられていなかった。本研究により短時間の脳虚血でもミトコンドリア電位を低下させることが確認された。
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