研究概要 |
近年開発された骨がん疼痛モデルマウスを用いて,骨がん疼痛に対するモルヒネ鎮痛効果を評価するとともにmuopioid受容体(MOR)発現が末梢神経-脊髄神経系でどのように変化しているか炎症性疼痛と比較・検討した. 1.炎症性疼痛モデルマウスにおける疼痛関連行動 炎症性疼痛モデルマウス作製3日後のフリンチ回数は骨がん疼痛モデルマウス作製14日後と同等であった.炎症モデルではモルヒネ1mg/kgの投与によりフリンチ回数が有意に低下し,用量依存性にフリンチ回数を低下させた.一方,骨がん疼痛モデルでは1mg/kg, 5mg/kg投与では効果が認められず,10mg/kg投与によりフリンチ回数の有意な低下が認められた. 2.骨がん疼痛モデルマウスと炎症性疼痛モデルマウスの脊髄と後根神経節におけるMOR発現の変化 Western Blot法を用いてMOR発現を検討した.炎症性疼痛モデルマウスの患側DRGにおけるMOR発現は対照マウスと比較して,有意に増加した(P<0.05, 1.5±0.2倍)が患側脊髄では対照マウスと比較して有意な変化は認められなかった.一方,骨がん疼痛モデルマウスの患側DRG,患側脊髄におけるMOR発現は対照マウスと比較して,有意に減少した(DRG ; P<0.05, 0.5±0.1倍,脊髄;P<0.05, 0.7±0.1倍).また,骨がん疼痛モデルマウスの患側脊髄におけるMOR mRNAは対照マウスと比較して変化しなかったが,患側DRGでは有意に減少した(P<0.05, 0.5±0.2倍). 3.免疫組織化学的解析による骨がん疼痛モデルマウスにおけるMOR発現の変化 対照マウスDRGにおけるMOR陽性細胞の割合は45.2±1.7%であった.主に小型細胞に発現し,発現細胞面積分布のピークは100-300μm^2であった.一方,骨がん疼痛モデルマウスの患側DRGにおけるMOR陽性細胞の割合は30.3±2.1%で対照マウスに比較して有意に減少した(P<0.05). 4.骨がんモデルマウスにおけるMORとNF200, IB4, CGRPおよびTRPV1との共存 対照マウスではNF200陽性細胞中のMOR陽性細胞の割合は36.1±3.1%, IB4陽性細胞中のMOR陽性細胞の割合は37.9±4.5%, CGRP陽性細胞中のMOR陽性細胞の割合は61.5±2.9%, TRPV1陽性細胞中のMOR陽性細胞の割合は72.1±3.0%だった.一方,骨がん疼痛モデルマウスではそれぞれ29.8±1,1%,36.3±4.2%,41.5±2.1%,48.4±3.1%であった.MORとNF200またはIB4の共陽性率に変化は認められなかったが,MORとCGRPまたはTRPV1との共陽性率は有意に減少した(P<0.05). 以上により骨がん疼痛では末梢神経レベルでMOR発現低下し,モルヒネ鎮痛効果減弱の一因となると考えられた.
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