研究概要 |
われわれは平成16年度より基盤研究(B)を受けて、精巣腫瘍には固有のエピジェネティックスがみられ、ゲノムが広範な脱メチル化を受けていることを報告した。さらに精巣腫瘍の転写メカニズムにおいてDNAのメチル化以外のものが重要であることを示唆するデータを示した(Lancet 2004,Genes Chromosome Cancer 2005,ONCOGENE 2005)。これら一連の精巣腫瘍研究の成果は世界からも高く評価をされ、申請者は平成18年10月に、精巣腫瘍唯一の国際学会である、コペンハーゲン国際精巣腫瘍ワークショップで、招請講演を行った。また新たな研究の展望として、平成18年度からは、精巣腫瘍への新規感受性薬剤の開発を念頭におきつつ、われわれのエピジェネティックス研究をクロマチン研究へと展開するため以下の実験を行っている。すなわち、精巣腫瘍の脱メチル化維持機構は腫瘍生物学的見地から重要な研究課題であると考えるが、これまでのわれわれの解析や、他のグループの解析でも精巣腫瘍固有のメチルトランスフェラーゼの機能異常は見つかっていない。われわれは各種のDNMT(DNAメチルトランスフェラーゼ)の発現について解析した結果、DNMT1,DNMT2,DNMT3a, DNMT3bなどの主だったDNMTには異常はみられなかったが、唯一DNMT3Lだけが正常精巣や体細胞では発現を認めないものの、精巣腫瘍では高発現していることが確認された(unpublished data)。興味深いことにDNMT3Lは胎生期の始原生殖細胞(PGCs)の特定時期にのみ発現し、レトロエレメントやインプリンティング遺伝子のメチル化獲得に重要な役割を果たすことが知られている。平成18年度の実験では精巣腫瘍におけるDNMT3L遺伝子配列変異はなかったため、現在精巣腫瘍由来細胞株6株においてDNMT3LをsiRNAにより強制的にダウンレギュレーションした細胞株を作成してGrowth assayをIn vivo, vitroで行うことにより精巣腫瘍におけるDNMT3Lが腫瘍増殖に果たす役割(特に癌遺伝子的意義があるか否か)を検討している。
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