一般に低温環境下では、細胞増殖、遺伝子発現ともに低下するのが普通であり、精巣内の細胞がどのような機序でその低温環境に適応しているのかは不明である。本研究では、精巣のおかれた低温環境下での遺伝子発現制御機序を明らかにし、その変化の臨床的意義を解析する。1.ヒト細胞株2種を37度と32度で培養し、DNAマイクロアレーを用いて32度で発現の亢進する遺伝子候補群を得た。変化の大きな10遺伝子について、さらにnorthern blottingとRT-PCRで解析したところ、5遺伝子で低温での発現亢進が確認された。2.CIRP遺伝子の軽度低温応答エレメントmild cold response elementを同定し、1-2塩基を置換していくことにより、コアとなる4塩基が重要であることを示した。制御領域に結合する転写因子を、酵母の1ハイブリッド法により同定を試みたが、バックグラウンドが高く、条件を再検討中である。なお、制御領域をGFP遺伝子につないだものを細胞に導入し、GFP発現誘導を指標として発現クローニングにより低温応答に関与する遺伝子群を同定できる系を作成した。3.2次元ゲル電気泳動により、32度で発現の亢進する蛋白の同定を試みたが、候補蛋白の抗体によるwestern blottingで発現増加を確認できなかった。4.CIRPの5'UTRをルシフェラーゼレポーター遺伝子につないでトランスフェクションにより細胞に発現させ、32度で翻訳を促進する配列を同定した。5.マウス3T3線維芽細胞に抗がん剤や高浸透圧他いろいろなストレスを加え、32度という温度が一般的にいろいろなレベルでストレス耐性を与える可能性を発見した(投稿中)。
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