研究概要 |
ヒト腎癌は手術以外には決定的な治療戦略がなくサイトカイン療法が軽度の効果を示すのみで遠隔転移にも有効な治療法はない。ヒト腎細胞癌内ではclear cell renal carcinoma (clear cell RCC)の頻度が80%と最も多く、その70%はVon Hippel-Lindau(VHL)遺伝子の欠失と機能喪失が主な発症原因と考えられている。しかしこの変化のみではヒト腎癌の増殖進展を説明できず、増殖機構をターゲットとしたヒト腎癌の治療には根本的な限界がある。我々はVHL遺伝子と協調して不活化している遺伝子群を探索する目的で、ヒト腎癌で特異的にメチル化を受けている癌抑制遺伝子群をスクリーニングし、日本人の腎癌で特異的にメチル化を受けている遺伝子群を同定した。具体的にはRASSF1A, CHFR, CACNA1G, TMS1,COX2,DAPK, MINT1,MINT2,MRC9,MIRC37等の遺伝子が種々の頻度で、ヒト腎細胞癌組織でのメチル化をうけており、腎細胞癌の株細胞でも、同様の遺伝子のメチル化を受けていることが判明した。これらの遺伝子とVHL遺伝子は独立して不活化が起こりヒト腎細胞癌の発生進展がおこっていることが明らかとなった。我々はさらにMIRC9の遺伝子同定を進めてHOXB13遺伝子という尿路と脊椎の尾部の形成に関わっているホメオボックス遺伝子であることを明らかにした。また、HOXB13はヒト腎細胞癌の約30%で遺伝子のpromoter部位でメチル化を受けている。この遺伝子をHOXB13が発現していない腎細胞癌に導入すると癌細胞のApoptosisがみられる。そのためこの遺伝子はヒト腎細胞癌で主要な癌抑制電子の候補であり、主要な機能の1つは細胞へのApoptosisの誘導と考えられた。今後、腫瘍DNAのメチル化を用いた腫瘍マーカーとして利用が可能と考えられる。現在MIRC37についてもその遺伝子を同定しつつある。そのほか、共同研究でHIG2遺伝子蛋白がヒト腎細胞癌の血漿中で発現しおり、今後腫瘍マーカー,治療の標的として有用である可能性も示唆した。
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