研究概要 |
妊娠期間中の低栄養状態と成長後に発症する生活習慣病の因果関係を科学的に解明することを本研究の目的とした。妊娠マウス母獣に30%の摂餌制限を行い胎仔発育遅延モデル(マウスIUGRモデル)を作製し、成長後に高脂肪食負荷による易肥満性、耐糖能の低下、脂質代謝異常、血圧上昇を引き起こす成人期発症生活習慣病の新しいモデルマウスを確立した。このマウスは成長後に中枢性のレプチン低感受性を獲得していることが明らかとなった。一般的にマウスの新生仔にはレプチンサージと呼ばれる血中レプチン濃度の一過性の上昇が認められるが、このマウスIUGRモデルでは「レプチンサージの早期化」が生ずることが明らかとなった。正常マウスの新生仔にレプチンを投与して「レプチンサージの早期化」を引き起こした場合に、マウスIUGRモデルの老年期と同様に中枢性のレプチン抵抗性を獲得し、高脂肪食負荷による易肥満性、耐糖能の低下、脂質代謝異常が認められたことから、「レプチンサージの早期化」は胎生期の低栄養が老年期に発症する生活習慣病のリスク因子となる機序に深く関与していることを初めて明らかにした。さらに、「レプチンサージの早期化」は視床下部におけるレプチンの感受性を低下させるのみならず、neuropeptide Y(NPY)やproopiomelanocortin(POMC)のなどのエネルギー代謝調節に重要な役割を果たす神経線維の発達あるいは活性化に影響を及し、結果として高脂肪食負荷に対するdiet induced thermogenesis(DIT)反応の活性化を抑制して、易肥満性を獲得することを世界で初めて明らかにし論文発表した(Yura S, Itoh H et al., Cell Metab,2005,1,371)。本研究により、胎生期の低栄養環境が成熟後の肥満や糖代謝異常などの生活習慣病発症に関与する具体的な機序の一旦が解明された。
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