研究概要 |
年間7000人以上の本邦婦人が卵巣癌に罹患し,約4000人が毎年死亡していると推定されている。その粗死亡率は年々上昇し続け,この50年間で8倍以上となっている。近い将来,減少傾向の子宮頸癌にかわり欧米と同様に婦人科悪性腫瘍の首座を占めると考えられる。卵巣癌は早期症状に乏しく,初診時III/IV期の進行癌が過半数を占め,卵巣癌には"silent killer"との別称も存在する。また,卵巣癌は比較的化学療法が有効とされている悪性腫瘍の一つであり,近年のtaxane系抗悪性腫瘍薬の登場によりさらに優れた治療効果が得られる様になった。一しかしながら,依然として進行卵巣癌の大半は再発・死亡し,その生存期間の延長のために新規治療法の開発に精力が注がれている。その新規治療法および予防法の開発には卵巣癌の発生メカニズムを解明することが必須となる。 悪性腫瘍に限らず各疾患の動物モデルは病態解明のために非常に重要である。われわれはこれまでに種々の発癌関連遺伝子<c-src,c-erbB2,lGF-1,E2F1>のトランスジェニックマウスを作製し,これらのマウスにおいて皮膚癌,胆嚢癌,前立腺癌子宮頸癌などが発生することを明らかにしてきた。これらのマウスにはプロモーターとしてkeratin 1,5,14を使用してきたが,これらのkeratinは卵巣表層上皮には発現が認められず,卵巣癌の動物モデルとはなり得なかった。そこで,われわれはまず卵巣癌動物モデルとなりうるトランスジェニックマウス作製のためのプロモーターの選定を行い、keratin8 (K8)が卵巣表層上皮に特異的に発現していることを見いだした。現在,K8のプロモーターのクローニングを終了し,K8をプロモーターとして各種発癌関連遺伝子を標的遺伝子としてトランスジェニックマウス作製のためDNA constructを作製中である。
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