今回申請の研究では、両耳聴覚機能、視覚-聴覚のマルチモーダル信号処理機能を心理音響的手法ならびに脳磁図を用いて解析することを目的とした。研究成果の概要は以下のとおり。 1.両耳ラウドネス加算:心理音響的には、約6d8の加算効果があるが、脳磁図N100m上では、同様の加算効果は観察されなかった。ラウドネスは聴神経興奮の総和に関連していると考えられているが、中枢でのラウドネス認知機構は、単純な聴覚野神経興奮の総和には反映されないものと思われた。 2.雑音下での信号検知能:雑音下での信号聴取に効果的なmasking level differenceが脳磁図検査においても評価可能であることを示した。さらに、意識障害患者でも正常被験者とほぼ同質のmasking level difference現象が確認され、本機能が注意や意識レベルと関係なく観察される現象であることを明らかにした。 3.音像定位能:両耳聴力が不均衡な状態においては、時間差による手がかりが優位になっている可能性を考え、time-intensity trading現象を検討、聴力の左右差が、time-intensity tradingに何らかの影響を与えることが示唆された。 4.視覚刺激の聴性誘発脳磁界への影響:視覚刺激の聴覚反応への影響の可能性を検討したが、検討した範囲では、明らかな陽性所見は得られなかった。 5.機能性難聴患者における聴覚野の異常に関する検討:器質的病変がないとされる機能性難聴患者の聴覚誘発磁界を記録し、左右それぞれの耳からの音刺激に対する左右聴覚野の機能を検討した。その結果、特に10歳以下の若年例の患者で、高率に片側または、両側のN100mの異常が検出された。
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