研究概要 |
Bell麻痺やHunt症候群において、ステロイドの投与量に関する基準がないため、本研究ではHSV-1再活性化動物モデルを用いて、プレドニゾロンを初期量として0.5mg/kg/day(A群)、1mg/kg/day(B群)、3mg/kg/day(C群)を投与する3群を作成し、麻痺の回復経過と浮腫や炎症の程度を病理組織学的に比較し、ステロイドの至適量について検討した。その結果、完治までの日数はA群で75±3.2日、B群では5.7±2.2日、C群では5.1±2.4日であった。すなわち、ステロイドの初期量が多いほど治癒が促進される傾向が認められた。また、病理組織標本にてもステロイドの量が多いほど、神経変性は軽微であった。以上のことから、ステロイドの量に依存して神経浮腫が改善し、麻痺の回復も促進することが示された。 一方、ラジカルスカベンジャーであるエダラボンをHSV-1接種後、4日目に投与して麻痺発症予防効果を検討したが、エダラボン投与マウスでは10匹のうち7匹に麻痺が生じ、コントロール10匹中の5匹に比較して、高頻度に麻痺が発症した。これは、予想外の結果であった。 神経栄養因子を遺伝子導入したHSV-1による神経再生実験では複製不能型HSV-1を作成して、LacZを導入し耳介に接種したが、顔面神経内に導入遺伝子は確認できなかった。次に顔面神経を外科的に露出して、LacZを組み込んだ複製不能型HSV-1を接種したところ、神経内への導入遺伝子の発現が確認された。その後、HGFを組みこんだ複製不能HSV-1を作成し、同様の手段で接種したところ、顔面神経麻痺の回復促進がみられた。神経の再生は電子顕微鏡的も、電気生理学的にも確認されたことから、HSV-1は神経栄養因子を遺伝子導入し、神経再生に利用するベクターとして有望であることが示唆された。今後はBDNF, GDNF, CNTFなどの神経栄養因子をHSV-1に組み込み、in vivoで検討することが必要である。
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