研究概要 |
加齢黄斑変性(AMD)は先進国における高齢者の視覚障害の最大の原因であり,人口の高齢化に伴い増加傾向にある。AMDでは特に脈絡膜新生血管(CNV)が発生する滲出型AMDが問題であるが,CNV発生の分子機構は明らかではない。我々はCNVの前駆病変であるドルーゼンに着目し,特にCNVを惹起する物質として最近AMDのドルーゼン中に存在することが明らかになったamyloidβ(Aβ)に着目した。AβはAlzheimer病の原因物質であり,酸化ストレスを惹起し種々の細胞に働きかけて様々な加齢関連疾患を引き起こす主役物質である。そこでドルーゼンからCNV発生に至る原因物質として特にAβに着目して実験を行った。 本年度はまずヒト網膜色素上皮細胞(RPE)がAβを産生,分解する能力を有するか調べた。培養ヒトRPEから抽出したtotal RNAを用いたRT-PCRおよびマウス眼球の凍結切片を用いた免疫染色にて,Aβの前駆物質であるAPP,分解酵素neprilysin,切り出し酵素β-secretaseのすべてが発現しており,RPEは生理的状態でAβの産生,分解を行っていると考えられた。つぎに異常に蓄積したAβがRPEにおける遺伝子発現にどう影響するかを調べるために培養RPEにAβ^<1-40>を負荷して培養し48時間後にRNAと培養上清を採取した。その結果,Aβ負荷後のRPEでは血管内皮増殖因子であるVEGFの発現が有意に上昇し,血管新生抑制因子である色素上皮由来因子PEDFの発現が有意に低下していた。またAβ処理後のRPE培養上清を臍帯静脈内皮細胞HUVECsに添加すると血管腔形成を促し血管新生を促進していた。以上からRPEにおけるAβの生理的代謝が崩れ,異常に蓄積したAβはRPEに作用し血管新生を促進することがin vitroの実験から示された。
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