研究概要 |
糖尿病網膜症における神経変性と血管症との経時的関わりを検証するために、自然発症糖尿病トリイ(SDT)ラット10,20,40週令ならびに糖尿病発症直後からインスリン・インプラントを設置して血糖を厳密にコントロールした40週令を用いて、フルオレセイン蛍光眼底造影で血管症の、TUNEL染色ないし活性型カスパーゼ3免疫染色でアポトーシスの、GFAP免疫染色とWestern blottingでグリア活性の評価を行った。その結果、40週令の数割で網膜新生血管が観察され、有意に神経細胞のアポトーシスが増加していた。一方、20週令の段階でGFAPの発現分布と発現量が変化し、インスリン治療により改善していた。SDTラット網膜では新生血管や神経細胞死に先行してグリア細胞機能の発現に変化が見られることがわかった。 近年多くの緑内障点眼薬が眼圧下降作用以外に神経保護作用を有することが報告されている。糖尿病網膜症における神経・グリア細胞変性が点眼薬により抑制される可能性を検証するために、ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの片眼にプロスタグランジンF2α誘導体のラタノプロスト、対側眼にBSSを5日間点眼した。網膜ないし眼球を摘出し、TUNEL染色ないし活性型カスパーゼ3免疫染色を行って単位面積あたりのアポトーシス細胞数を計測した、また、代表的な細胞内抗アポトーシス・シグナルであるp44/p42 MAPKとAktのラタノプロストによる活性化を見るために、網膜から蛋白を抽出し、各々の全蛋白量とリン酸化蛋白量をWestern blottingにより定量した。糖尿病誘導一ヶ月および三ヶ月後に、BSS点眼側では単位面積あたりの網膜神経・グリア細胞のアポトーシス数は有意に増加していたが、ラタノプロスト点眼側ではこの数が有意に減弱した。一方、ラタノプロスト点眼は、網膜内p44/p42 MAPKのリン酸化を亢進させたが、Aktのリン酸化は増加させなかった。ラタノプロストは点眼により特異な細胞内情報伝達経路が賦活化され、糖尿病による網膜神経変性を抑制できる可能性が示された。
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