研究概要 |
形態形成のマスター調節遺伝子としてホメオボックス(HOX)遺伝子が知られている.HOX遺伝子は,胚発生過程において時空間的なコリニアリティーをもって発現が制御されており,現在39個の遺伝子が知られている.近年,HOX遺伝子は,胚発生過程だけでなく,成体においても組織や臓器に特徴的な発現パターンを示すことが分かってきた.さらに,癌組織におけるHOX遺伝子の発現パターンは,正常組織とは異なることが明らかにされ,HOX遺伝子の発現異常と発癌,転移,浸潤とを関連させて考えることが可能になってきた.今回我々は,HOX遺伝子の発現異常が,悪性黒色腫の発癌,転移に関与すると考え,ヒト悪性黒色腫の原発巣,転移巣および色素性母斑のHOX遺伝子の発現パターンについて解析を行った. 方法として,細胞や組織からRNAを抽出し,RT-Real-time PCR法にて39個全てのHOX遺伝子の発現パターンを定量的に解析した.まず,3株の悪性黒色腫細胞をヌードマウスに移植し,原発巣,転移巣ならびに移植前の培養細胞についてHOX遺伝子の発現を比較した.その結果,培養細胞・原発巣・転移巣において,その発現パターンに差を認めなかったが,各細胞株に特徴的な発現パターンを示した.次に,ヒト悪性黒色腫と色素性母斑の手術検体について比較した結果,悪性黒色腫は色素性母斑と比較して,HOXA11,A13,B9,D12,D13遺伝子の発現が増加していた.また,興味深い結果として,術後に遠隔転移を発生した症例では,HOXA1,A2,C4,B13遺伝子の発現量が遠隔転移を認めない症例と比較して増加していた.しかし,悪性黒色腫において,発生部位や転移先臓器に,特異的なHOX遺伝子の発現パターンは認めなかった.以上の結果から,ある特定のHOX遺伝子の発現変化が,悪性黒色腫の発生および遠隔転移に関与する可能性が示唆された.
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