われわれはこれまでマウスやラットを用いて、ケラチノサイトの幹細胞の局在と動態について研究を行ってきた。その結果、ケラチノサイトの幹細胞は付属器である毛包内のバルジと呼ばれる外毛根鞘膨大部に存在し、毛球に向かって遊走し毛に分化すること、さらに表皮、脂腺にも分化することを認めた。しかしこれまでの実験ではバルジは約500個の細胞を含んでおり、幹細胞のpopulationを移植していたため、各々の幹細胞の分化能については単分化能か多分化能かは不明であった。 今回、われわれは毛包幹細胞の多分化能を証明することを目的に、下記の実験を行った。最初にGFPをubiquitousに発現しているGreen ratから毛包幹細胞を採取して3T3 feeder layer法によりsingle cell suspensionを行い、クローンを作製した。作製したクローンにレトロウイルスによりLacZを遺伝子導入し、クローンを二重標識した。この方法によりGFPによる表在性の細胞遊走の観察とLacZによる組織切片での形態形成の解析が可能となった。このクローンを培養、増殖して、wild type ratの胎児皮膚内に移植した。拒絶をさけるため1週間後に移植部位の皮膚、ヌードマウスの背部に再移植した。この皮膚を経時的に組織学的解析を行い、皮膚内に移植されたクローンの遊走、形態形成を検索した。その結果クローンから毛、表皮、脂腺が形成され、single stem cellが多分化能であることが解明された。
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