研究概要 |
歯の発生における幹細胞の検索では,2〜3日齢の齧歯類切歯や1〜4週のモルモット臼歯を用いて,BrdUラベリングを用いて常生歯における幹細胞動態を検索した。その結果,ネズミの形成端apical endをよく見ると,通常は歯の造られる時にしか見られない歯胚tooth budが恒久的に維持されていることが明らかとなり,私たちはこの領域をapical budとよぶことを提唱した。また,モルモット臼歯には複数のapical budが存在し,複雑な歯冠形態が形づくられることが明らかとなった。 窩洞形成後の幹細胞の検索では,100日齢Wistar系ラットの右側上顎第一臼歯近心面に象牙質の厚み半分に達する窩洞を形成した。固定2時間前にブロモデオキシウリジン(BrdU)を腹腔内投与し,窩洞形成直後,6,12,24時間,3,5日後にアルデヒド系固定液で灌流固定した。EDTA脱灰後,凍結・パラフィン切片を作製し,抗HSP-25ポリクロナール抗体,抗BrdUモノクロナール抗体を用いた免疫染色標本を作製した。なお無処置群の左側上顎第一臼歯を対照群とした。対照群歯髄では,歯冠部象牙芽細胞がHSP-25強陽性を示したが,歯髄内にはBrdU免疫陽性細胞はほとんど観察されなかった。窩洞形成直後には損傷部位のHSP-25免疫陽性象牙芽細胞は層構造を失い24時間後には歯髄・象牙質界面から消失した。3日後になると,HSP-25陽性象牙芽細胞様細胞が歯髄・象牙質界面に再配列したが,3〜5日後に損傷を受けた近心歯冠部歯髄全域にわたりBrdU陽性細胞が多数観察された。窩洞形成後の再生象牙芽細胞が歯髄・象牙質界面に配列した後に損傷を受けた歯髄の広範囲にわたり細胞増殖が更新する事実より,再生象牙芽細胞分化後にも歯髄の組織改変が進行していることが明らかとなった。
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