研究概要 |
マウス形成端におけるエナメル上皮幹細胞と間葉系幹細胞のnicheの構築において、間葉系細胞から分泌される線維芽細胞増殖因子-10(Fgf-10)が重要な働きをしていうことは既知のことである。しかし、現在のところ、Fgf-10の発現に関わる上皮の因子については不明であり、上皮-間葉相互作用を人工的に構築するためには、上皮からの因子解明は不可欠である。そこで、我々の樹立したエナメル上皮幹細胞株HAT-7とマウス下顎切歯apical bud(エナメル上皮幹細胞の存在場所)における遺伝子発現を網羅的に解析したところ、WntシグナルファミリーではWnt3a,-4,-5a,-5b,-7a,-7b,-10b,-11の7種類、FgfファミリーではFgf-1Fgf-4,Fgf-6,Fgf-8,Fgf-9の4種類が考えられた。そこで、これらのリコンビナントタンパクや強制的発現細胞の培養上清を用いて歯乳頭組織の器官培養系におけるFgf10の発現を検討した。この結果と過去の研究から、Fgf-9が最も有力な因子として考えられた。次に、apical bud周囲の歯乳頭由来の1次培養細胞にFgf-10プロモーターとβ-galをつないだベクターを遺伝子導入し、Fgf-10の発現に対するFgf-9の効果を検討した。その結果、Fgf-9はコントロール(ウシ血清)に比べて7倍、Fgf-2に比べて1.5倍のFgf-10発現細胞を誘導した。以上より、Fgf-10の発現には上皮組織からのFgf-9の分泌が重要な働きをしていることが明らかとなった。現在、Fgf-9の組織での発現の再確認、Fgf-10のレポーターアッセイ、中和抗体を用いた実験などによりさらに詳細に検討を進めている。また、Fgf-9を結合させるスキャホールドの検討して上皮-間葉の相互作用を構築するとともに、Fgf-10とFgf-9の発現に関わる相互作用の詳細を検索する予定である。
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