研究概要 |
マウス形成端におけるエナメル上皮幹細胞と間葉系幹細胞のnicheの構築において,間葉系幹細胞が発現する線維芽細胞増殖因子-10(Fgf-10)とエナメル上皮が発現するFgf-9の細胞増殖因子による相互作用が重要な働きをしていることが明らかとなった.切歯形成端の前頭断連続切片ではapical bud内のエナメルノット様構造物にFgf-9の発現が観察され,切歯の持続的成長と形態を制御するための新しい組織構造を見出した.Fgf-9の機能解析に,マウス形成端由来の不死化間葉細胞を数種類作製した.この細胞に対してFgf-9は強力な細胞増殖活性を示すと同時に細胞の分化を抑制することが明らかとなった.以上から,Fgf-9が切歯形成端間葉系幹細胞の維持に働いている可能性が示唆されたが,実際にはin vitroで切歯のエナメル上皮幹細胞と間葉系幹細胞を維持するにはこれらの因子だけでは不十分であった.我々は様々な因子を検討した結果,切歯形成端の細胞をin vitroで維持する培養条件には,EGFとFGF2が必要であり,これらの因子を用いた無血清培地による不死化細胞樹立に成功した.エナメル上皮幹細胞と間葉系幹細胞の培養細胞あるいはsingle cell suspensionをコラーゲンスポンジによって再構築して,腎被膜下に移植する実験を行った結果,良好な歯の形態は作り出すことができなかった.そこで,この材料に対してEGFとFGF2,FGF10,FGF9を徐放するゼラチンビーズを組み込んで腎被膜下に移植するとエナメル上皮の増殖を誘導することが可能となり,その結果切歯の再生に成功した.最終的には再生歯における形態や大きさをいかにして調整をするかについては現在も研究の進行中であり,今後の課題としたい.
|