研究概要 |
転写因子NF-κBは、炎症の発症や進行、免疫系細胞の分化など様々な生命現象に深く関与する。NF-κBは無刺激状態では活性抑制タンパク質であるIκBと結合して細胞質に留まっている。細胞が刺激を受けると、IκBはIκBキナーゼ(IKK)複合体(IKKα,IKKβ,NEMO)によってリン酸化され、分解される。その結果、NF-κBは核へ移行し、標的遺伝子の発現を調節する。近年、この「IκBのリン酸化」→「NF-κBのDNAへの結合」=「NF-κBの活性化」という図式だけでなく、p65サブユニットの幾つかのセリン残基(276,311,529,534番目)のリン酸化が転写活性を調節することが報告されている。我々は、生体内におけるS276のリン酸化の役割を明らかにするためにS276をアラニンに置換したノックインマウスを作出し、解析した。S276Aマウスは、リンパ管と血管の分離が不完全であり、胎生18.5日頃にリンパ管への出血のために死亡すると考えられる。しかし、胎児の中には胎生14.5日頃にはすでに死亡し吸収されているものも存在し、表現形に多様性が見られた(論文投稿準備中)。 S276の重要性が唱えられる一方で、IKKβが534番目(ヒトでは536番目)のセリン(S534)をリン酸化し、NF-κBの転写を促進するという報告が蓄積している。我々はS276同様に534番目のセリン残基をアラニンに置換したノックインマウスを作出することを試み、S534AノックインマウスのコンストラクトをES細胞へトランスフェクションした。G418耐性クローンの選別を行い、3種類の陽性クローンを得たが、すべてのクローンで染色体異常(染色体数:41)が認められた。そこで新たにES細胞へトランスフェクションし、3つの陽性クローンを得た。今後、カリオタイピングを行い、正常な染色体をもつクローンでCreリコンビナーゼによる、ネオマイシン耐性遺伝子の除去を計画している。
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