本研究の目的は、従来確立されていなかった、歯根膜に対する力学的応力に対する組織応答検索のための動物実験モデルを確立し、細胞レベルでのたんぱく質の発現やアポトーシスを詳細に検索すること、および咬合圧という物理的ストレスを生化学的な信号に転換する歯根膜細胞の観察を通して、メカノレセプターの存在とそれを担う細胞を推定すること、の2点であった。 平成16年度にはラット上顎臼歯に直径約1mmのワイヤーを接着し、固形飼料を与えて咬合性外傷を惹起する実験を行った。これにより、歯根膜組織が破壊過程から再生過程へと転換する時期を詳細に検索でき、過度の咬合力によって歯根膜組織に破壊が起こる時期が確定できた。 さらに骨関連蛋白を数種類選定し、これらに対する抗体で免疫組織化学的な検索を行ったところ、破骨細胞でオステオポンチンの発現上昇が認められた。破骨細胞にオステオポンチンの発現を誘導すると考えられているRANKLに対する免疫染色を行ったが、部位や細胞特異的な発現は認められず、特殊なオステオポンチン発現誘導経路が示唆された。 平成17年度18年度には咬合力が加わらない条件下での歯根膜の組織変化について検索するために、ラットの下顎臼歯を抜歯し、1日〜14日間後に上顎におけるオステオポンチンの発現を検索した。実験機器の都合により、機械的な刺激に代わるものとして、温度刺激に注目し、in vivoにおける組織変化を検索した。その結果、温度と機械的刺激との共通点は見出せず、今後は大腿骨や歯根膜に対する熱刺激を使用するモデルを検討する必要がある。 平成19年度には歯根膜に対する熱刺激の実験モデル確立の試みを行なったが、簡便な装置による安定した刺激は得られず、これについても今後の課題とした。今後は、軟組織に対する熱刺激と機械刺激に関する実験モデルにおいて、同一条件下で両者の比較をし、実験の簡略化を図りたい。
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