研究概要 |
近年,修復材料に審美的要件が強く求められるようになったことや簡便な操作性などの理由から,多くのレジン系材料が金属,セラミックス材料に代わって用いられるようになってきたが,同時に,その問題点も数々指摘されている.主な問題点としては機械的性質が金属,セラミックス系材料と比較して劣ることと歯科用レジンのベースモノマーとして広く用いられているBis-GMAがホルモン様作用を有するビスフェノール-Aの問題を内包していることである.現在,広く普及しているレジン系材料であるが,それらの物性改善は主としてフィラーとの複合化によってなされている.その構成モノマーは従来のビスフェノール-Aグリシジルメタクリレート(Bis-GMA),ウレタンジメタクリレート(UDMA),トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)などを脱しておらず,それらを凌ぐ性能を持ったモノマーは合成されていない. 我々は,現在の歯科用レジンの大きな問題点である上記二点を同時に解決することを目指した.従来,高強度レジンの分子骨格には剛直な芳香環が用いられてきた.その芳香環が内分泌攪乱作用の元凶であるとの認識に立ち,環状構造を持たない塩基性モノマーと酸性モノマーとを組み合わせることにより,重合時に緻密な環状構造を構築する共重合系を提案している.この系において,塩基性モノマーと酸性モノマーの間で水素結合に基づく複合体が形成されることを分光学的手段で確認している,その複合体が一つのモノマーとして挙動して重合することによって,極めて高い架橋密度構造を有するレジンとなるものである.特に,UDMAとメタクリル酸(MAA)とから構成されるレジンがUDMA:MAA=1:2(モル比)の組成において,高強度・高弾性(強度と剛直さ)と高靭性(粘り強さ)を兼ね備えており,レジン系材料のマトリックスレジンとして具備すべき機械的物性を兼ね備えた特異なレジンであることを見出した.また,内分泌攪乱物質を含まないのみならず,細胞毒性に関しても従来レジンと同等であることを明らかにした.
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