研究概要 |
既存の歯科用レジン系修復材料のベースモノマーは,その重合体に優れた機械的性質が要求される。特に,高弾性を賦与する為に,分子内に剛直なビスフェノール-A骨格を持つBisphenol-A glycigylmethacrylate(Bis-GMA)が用いられるが,ビスフェノール-Aに基づく内分泌攪乱作用が懸念されている。そこで,芳香環を含まない高弾性レジンを求めて,UDMAのウレタン結合と水素結合形成が可能な酸性モノマーとから成る新規なモノマー系を構築し,その重合体が共有結合と水素結合とから構成される極高密度環状構造を有することにより高強度・高弾性・高靱性レジンとなることを明らかにした。 しかしながら,UDMA/MAAレジンは環状構造内に水素結合を含むことより,その耐水性が懸念された。そこで,UDMA/酸性モノマー系レジンの歯科用マトリックスレジンとしての可能性を探るとともに長期水中浸漬試験を行うことにより,共有結合のみから成る環状構造を有する従来の歯科用レジンと耐水性に関して比較検討した。酸性モノマーとしてはUDMAと組み合わせた時に優れた初期機械的性質を発現させることが出来たMAA, Acrylic acid(AA), Methacryloyl ethyl phthalate(MEP)を選択してほぼ完全に重合させたレジンの長期耐水試験を実施した結果,その飽和吸水率は従来レジンの2倍の7wt%程であった。また,UDMA/AAとUDMA/MEPレジンは長期水中浸漬による機械的物性の低下率は従来レジンと比較して大きかった。しかしながら,UDMA/MAAレジンのみは従来レジンの2倍の飽和吸水率を示しているにも関わらず,その機械的性質の低下率は従来レジンよりも低かった。このユニークな物性は,共有結合と水素結合とから成る特異な環状構造と水によって容易に切断されない強固な水素結合に起因すると考えられた。
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