研究概要 |
近年,審美的要求からレジン系修復材料が多用されるが,マトリックスレジンは旧来からのBis-GMAに代表される芳香環を含むベースモノマーで構成され,優れた機械的性質を発現する反面,内分泌攪乱作用の問題が指摘されている. 我々は塩基性基を持つ脂肪族ベースモノマーであるウレタンジメタクリレート(UDMA)と酸性基を持つ脂肪族酸性モノマーで構成される共重合系を構築し,その重合反応時に共有結合と水素結合で構成される極めて架橋密度の高い環状構造を構築することにより,芳香環を有するモノマー以上の機械的性質を発現させることが出来ることを明らかにして来た.また,環状構造を構成する結合に水素結合を含んでいるが,脂肪族酸性モノマーとしてメタクリル酸(MAA)を選択する時,UDMAに対してMAAを2倍モル含むレジンの長期水中浸漬時の機械的性質の劣化率は従来レジンと同様であることをも明らかにした. マトリックスレジンとしての可能性を探る複合材料は,UDMA/MAAレジンが従来の典型的なマトリックスレジンと較べてより優れた機械的性質と約2倍の飽和吸水率(6.5%)を示すことに着目して,修復材料に齲蝕予防機能を付与出来るグラスアイオノマーセメント用フルオロアルミノシリケートフィラーを用い,フッ素徐放性複合材料用マトリックスレジンとしての可能性を検討した.その結果,内分泌攪乱作用を招く芳香環状構造を持っていないモノマーを用いているにも係らず代表的な市販修復用複合レジンであるClearfil AP-X以上の機械的性質を持ち,且つ,フッ素徐放性をも可能とした複合材料を作り出すことが出来た. 更に,MAAよりも優れた機械的性質を発現させる脂肪族酸性モノマーの可能性を求めて,シスチンと言うアミノ酸を分子骨格とする新規二官能性(架橋性)モノマーであるN,N'-dimethacryloylcystineを合成した.
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