歯科医学の分野において、高齢化に伴うう蝕や歯周病などによる歯や歯質の損失増加からQOLの向上が求められている。故に歯科治療のゴールは単に欠損部外観の回復や機能回復のみならず、より高いレベルでの咬合維持や口腔諸組織の長期保全に加え、高次元での審美性の回復が求められている。それら理想的な歯科補綴治療を達成するのが、組細胞組織工学技術により再生した歯・歯周組織を従来の歯科医療に応用することであると考えている。本研究では細胞組織工学的手法を用いたエナメル質の再生と歯科補綴物への応用を目的として、エナメル芽細胞の培養法および培養エナメル芽細胞の重層化によるエナメル質バルクの再生の検討を行った。 ブタ第三臼歯から単離した歯胚細胞からEDTA処理により上皮細胞のみ選択培養し2継代まで培養増殖することが可能であった。またこれらの培養細胞はエナメル質に特異的遺伝子アメロジェニンを発現し、エナメル芽細胞の特徴を有することが分かった。 さらに、これらの培養細胞を生体吸収性高分子(ポリグリコール酸;PGA)でできたメンブレンに播種し、10%牛血清含有D-MEMにて1週間培養を行った。培養後、走査型電子顕微鏡(SEM)および細胞核蛍光染色法によりメンブレンに定着し均一に増殖している細胞像を観察することができた。 細胞が定着した生体吸収性メンブレンを10枚分積層した後、免疫抑制ラット(F344 Jcl rnu/rnu)の腹腔内に存在する大網組織に移植した。この大網組織は血流豊富なため組織再生の場として有効であると言われている。移植4週後に再生組織を採り出し組織切片を作製後、組織学的解析を行った。HE染色により重層化したメンブレン間に再生組織が認められた。 本研究により培養エナメル芽細胞を用いたエナメル質組織の再生技術の確立とその臨床への応用の可能性が示唆された。
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