研究概要 |
我々は、純チタン表面へ陽極酸化と水熱処理を行うことでハイドロキシアパタイト(HA)を析出させる表面処理法(SA処理)の有用性を検討してきた。SA処理により骨伝導性が高まる理由として、HA結晶を含むHA皮膜の化学的要因による効果が影響していると考えている.SA処理インプラント埋入後にオッセオインテグレーションを獲得し恒常的に維持・機能するためには、骨形成過程でのHA皮膜の化学的安定性について分析しておく必要がある。そこで平成16年度の研究では、骨芽細胞培養モデルを用いて、細胞外基質生成と石灰化形成の過程(5,7,10,14日間)におけるSA処理により形成されたHA皮膜の構造とHA結晶について、X線回折(XRD)とX線光電子分光分析(XPS)を用いて分析した。また、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いたHA結晶形態観察ならびに骨芽細胞の分化にともなう細胞外基質生成の形態観察、電子プローブX線微小部分析装置(EPMA)を用いた石灰化物の構成元素であるPとCaを指標とした分布状態の面分析を行った。SEM観察では7日目以降よりHA結晶上に骨芽細胞の分化により形成された石灰化小球体が認められた。また、結晶性の高い六方晶系を呈するHA結晶像が観察され、HA結晶の変化は認められなかった。全ての培養期間においては、XPS分析ではHA結晶内部のPとCaの結合エネルギーに変化は認められなかった。また、XRD分折ではTiO_2(anatase, rutile)、Ti、HAの2θ、d値と一致していた。以上の結果から、骨芽細胞による石灰化形成過程においては、HA結晶形態、HA結晶内部のPとCaの結合エネルギー、HA皮膜の構造に変化は認められないことが示された。HA結晶を含むHA皮膜は骨形成過程において変化することなく、オッセオインテグレーションを獲得しやすい場を作り出す要因となっていることが推察された。
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