研究概要 |
チタンの歯科材料としての利用が次第に増えてきているが,同時にチタンの口腔内における耐食性について詳細な検討が求められている.チタンは,不動態被膜の保護作用によって酸化性の環境では優れた耐食性を示すものの,齲蝕予防に利用されるフッ化ナトリウムの存在下では容易に腐食することが明らかとされている.他方,タンパク質の存在が金属の腐食を促進あるいは抑制することも報告されており,耐食性評価にはタンパク質の影響も重要である.既報では,フッ化ナトリウム溶液中におけるチタンの耐食性を詳細に検討すると共に,アルブミンの存在がフッ化ナトリウム溶液中でのチタンの腐食を抑制することを明らかとした.そこで、アルブミンがチタンの腐食を抑制するメカニズムについて更に検討することを目的として、アルブミンとフッ化物を含む生理食塩水中でのチタンの耐食性を電気化学的に調べると共に腐食表面の分析をおこなった。その結果、アルブミン吸着によりチタンの溶出を抑制することが明らかになった。しかし、チタン表面にアルブミンが吸着しているにもかかわらず、フッ化物はチタン上に存在し、チタンの腐食を抑制しつつ、腐食が進行していることが示された。 更に、種々の含嗽剤溶液中でのタイプ4金合金(PGA),金銀パラジウム合金(S12),コバルトクロム合金(CoCr)および純チタン(TI)の電気化学的腐食挙動と溶出金属元素量について調べた.その結果,薬用リステリン,ネオステリングリーン,コンクールF溶液中においては,いずれの歯科用合金も高い耐食性を示すことが明らかになった.一方で,イソジン液中ではPGAおよびS12がヨウ素によって腐食され,金属元素の溶出や腐食生成物の析出が起こった.また,フッ化物を含む生理食塩水中ではTIの耐食性低下を示すことが明らかになった.結論として,PGAとS12の耐食性はヨウ素によって低下し,TIの耐食性はフッ化物により低下することが明らかになった.
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