研究概要 |
タキソテール(docetaxel)の抗腫瘍効果の理論的根拠を示すために、タキソテールの口腔扁平上皮癌由来細胞株に対するアポトーシス誘導機構、主にFas/FasL(リガンド)経路の関与、ミトコンドリアの関与、カスパーゼ経路について、分子レベルで解析し、以下の結果が得られた。口腔扁平上皮癌由来株であるHSC-2,-3,-4細胞を用いてタキソテール(100nM)処理を行い、72時間後にTUNEL法によりアポトーシス細胞を測定したところ、HSC-2株は最も感受性を示し、HSC-4株は比較的抵抗性を示した。HSC-3株は中間の感受性を示したので、最初は主にこの細胞株を用いて解析を行った。この実験系にFas抗体(ZB4クローン)を加え、タキソテール誘導のアポトーシスに対する影響を調べたところ、アポトーシス誘導率はほとんど変化しなかった。すなわち、この系ではFas/FasL経路のシグナルは関与していないことがわかった。次に、タキソテール誘導のアポトーシスにどの種のカスパーゼが関わっているのかを検討した。その結果、caspase-3,-8,-9の活性化が観察された。caspase-8の活性化はユニークであり、Fas/FasL経路非依存性に活性化され、しかもcaspase-3の下流に位置することがわかった。caspase-8の役割については今後さらに検討する予定である。また、caspase-9の活性化はミトコンドリアの関与を予想させるので、ミトコンドリア機能の変化を調べた。タキソテール処理によりHSC-3細胞のミトコンドリア内に活性酸素の生成が観察され、膜電位の低下が起こった。さらに、ミトコンドリアから細胞質へのチトクロームCが放出された結果として、caspase-9が活性化されることがわかった。2年目以降は、タキソテールによるアポトーシス・シグナルをさらに詳細に解析する予定である。
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