研究概要 |
悪性腫瘍の治療において、腫瘍の進展範囲を正確に把握することは重要である。近年、蛍光物質である5-Aminolevulinic Acid(5-ALA)を用いて、腫瘍を術中に同定する研究Photodynamic diagnosis(PDD)が脳外科領域をはじめ、口腔癌でも応用されるようになってきた。PDDは腫瘍細胞を蛍光発色させることにより、腫瘍の局在を視覚化することができる。ヘムの前駆物質である5-ALAは、癌細胞に特異的に取り込まれ、ミトコンドリアでprotoporphyrinIX(PpIX)に生合成され、励起光を照射する事により蛍光を発するとされている。今回、以下の研究を行った 1)5-ALAを用いた腫瘍細胞の蛍光標識、蛍光強度の測定 ヒト口腔扁平上皮癌細胞株5種(HSC-2,HSC-3,HSC-4,Ca9-22,SAS)を用いて、腫瘍細胞の蛍光標識を行い、蛍光強度を測定した。それぞれの細胞株を通常培養、培養液中に5-ALAを添加、培養液中に5-ALAおよび光増感剤であるDefbroxamine mesylate(DFO)を添加、以上の3条件で蛍光強度を測定した。細胞株の蛍光強度は、いずれの細胞株でも通常培養、5-ALA,5-ALA+DFOの順に高くなっていた。以上より、5-ALAによる腫瘍の蛍光標識は可能で、さらに光増感剤を添加すると蛍光強度は著しく強くなることを確認した。 2)腫瘍の分化度による評価 前述した細胞株5種を、マウスの背部に移植し、その分化度をヘマトキシリン-エオジン染色にて評価した。低分化の細胞が2種(HSC-2,Ca9-22)、中分化の細胞が1種(SAS)、高分化の細胞が2種(HSC-3,HSC-4)であった。これらの蛍光強度は高分化、中分化、低分化の順に強くなっており、腫瘍の分化度と蛍光強度との間に相関があることが示唆された。 3)マイクロアレイによるPpIX生合成に影響を与える遺伝子検索 マイクロアレイには低分化な細胞(HSC-2)と、高分化な細胞(HSC-3)を用いた。マイクロアレイ解析ではBCL2L1およびBCL2L13が高分化な細胞において高発現していた。 4)今後の課題 当科にて既に報告されているヒト口腔扁平上皮癌でのマイクロアレイの結果を基に、ミトコンドリアでのPpIX生合成のメカニズムに関与する遺伝子を明らかにしていこうと考えている。今回、分化度により5-ALAの取り込みに差が認められたことから,病理組織学的に異形成を示す口腔白板症においてもPDDによる術中の切除範囲の決定などに応用できる可能性があり,今後は白板症モデルマウスを用いて検討を行う予定である。
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