口腔癌で高頻度にみられるリンパ節転移は頸部郭清手術で治療されるが、表在性に散発するリンパ節転移に対応する有効な治療法はない。単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)を用いた腫瘍融解療法の研究において、乳癌患者の転移リンパ節転移にHSV-1 HF10を投与することで腫瘍抑制効果がみられたと報告されており、リンパ節転移の新しい治療法として期待が寄せられている。本研究では臨床研究段階にある神経毒性遺伝子_<γ1>34.5遺伝子を欠失したHSV-1 R849とHF10が由来するHF株を用いて、これらの抗腫瘍効果を増強させる併用治療法について検討を行い、以下の結果を得た。1)肺転移を生じた患者より樹立した口腔扁平上皮癌細胞のヌードマウス頬部皮下移植で頸部リンパ節転移ならびに肺転移が認められた。2)R849を口腔扁平上皮癌細胞に感染しウイルス産生量を測定したところ、ウイルス産生の増加にともなって細胞生残率が低下した。感染後より白血病細胞の分化誘導剤ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)を存在下させると、HSV-1の前初期遣伝子の転写が亢進し、ウイルス産生量はさらに増加した。3)口腔扁平上皮癌を移植したヌードマウス腫瘍にR849を投与した群あるいはR849投与に加えHMBA腹腔内投与を行った群では、HMBA投与群で腫瘍が強く抑制され生存率も延長した。4)感染症では活性酸素が産生されるためHSV-1を感染に及ぼす影響を検討したところ、過酸化水素は上皮細胞からのウイルス放出を促進することが明らかとなった。5)HSV-1のHF株を用いた検討では、細胞融合によって巨大な多核巨細胞が形成され、細胞死が誘導された。口腔癌に対してもHFの抗腫瘍効果は十分期待できる。
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