研究概要 |
口腔癌の浸潤を制御している分子機構を解明し、分子標的療法の開発を目的に研究を行なってきた。in vitroの実験で口腔癌の浸潤にウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベター(uPA)とuPA受容体(uPAR)が密に関与しており、これらの発現はAP-1やNF-κBなどの転写因子によって調節されていることを示唆した。実際に口腔癌組織におけるuPAとuPARの発現を検索すると、両者の強発現はリンパ節転移や生存率に強く相関していた。また、癌組織において腫瘍周囲にはリンパ管の造成がみられ、そのリンパ管数の増加に応じてリンパ転移の頻度が増加した。また、リンパ管数は癌細胞における血管増殖因子(VEGF)ファミリーのVEGFCとVEGFDの発現、ならびにuPAやuPARの発現に応じて増加していた。癌細胞によるVEGFCとVEGFDの産生はリンパ管の新生を促し、リンパ節転移をひき起すと考えられるが、uPA/uPARシステムは不活性型で分泌される血管増殖因子の活性化に関与していると思われる。すなわち、uPA/uPARシステムはそのプロテアーゼ活性を利用して、口腔癌の浸潤を促進すると共に、リンパ管新生にも寄与していると思われる。 また、uPARはuPAの活性化に関与するのみならず細胞接着や細胞遊走をも調節していることも示された。すなわち、腺様嚢胞癌細胞はuPARを高発現しており、コラーゲンへの強い接着ならびに細胞遊走亢進を示すが、この機構にuPARが強く関与していることを示唆した。特に、接着斑におけるuPARとα2インテグリンと複合体形成は重要で、uPARをノックダウンすると、コラーゲン刺激によるインテグリン関連分子の接着斑への動員、細胞遊走亢進は完全に抑制された。 次に、癌転移に寄与する分子を網羅的にさらに検索するため、in vivoにおける癌転移モデルの作製を試みた。ACCS細胞の舌へ移植、形成舌腫瘍から細胞分離、分離細胞の舌へ移植を繰り返すことによって、100%の確率で顎下リンパ節に75%に肺転移を示す高転移株を確率した。この転移株と転移能を持たない親株をもちいてDNAマイクロアレイによって発現遺伝子の網羅的解析を行った。その結果、親株に比較して転移株で有意に発現が亢進していたものは細胞シグナル分子で、遺伝子の生物学的機能による分類では組織生理に関わるものが有意に発現亢進していた。 今回、転移関連分子として候補にあがったものは、uPA-uPAR, VEGF-C, VEGF-D、コネキシン43の発現亢進、E-カドヘリンやインテグリンの発現低下であった。本研究で確立した同所移植マウス実験系は自然微小転移を検出、評価するために有用なモデルであり、これを用いて今後、転移関連分子の同定、分子標的治療の評価を行うにしている。
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