研究概要 |
(1)17例の腺様嚢胞癌患者の生検材料においてNCAMの発現を免疫組織化学的に検索したところ,12例(70.6%)の癌細胞に陽性所見を認めた.NCAMは腫瘍細胞膜に陽性反応を示し,篩状構造および管腔様構造において散在性,あるいは集簇性に陽性細胞が認められ,特に神経周囲性浸潤した腫瘍細胞に陽性所見を認めた,その発現頻度と臨床病理学的因子との相関関係は特に認められなかったが,腺様嚢胞癌におけるNCAMの発現は高頻度であり,腫瘍の進展に大きく関与していることが示唆された. (2)唾液腺腫瘍細胞株HSGから自発的なNF-κBおよびCYLD発現を認めた.HSG細胞にTNF-αを作用させた際,NF-κB・CYLD発現の増強を認めた,cimetidine (CIM)の作用によりNF-κBの活性抑制を認めたが、CYLDに変化はなかった,またNCAMの発現量も減少した.ルシフェラーゼレポーターアッセイにおいてNF-κBの活性動態は,TNF-α刺激後4時間で最大となり,CIMの作用で減少した. (3)ヒト正常神経細胞とHSG細胞を共培養したところ,共焦点レーザー顕微鏡にて高率に接着していることを確認した.さらにHSG細胞に10^<-4>MのCIMを作用させた上で神経細胞と共培養したところ,HSG細胞の神経細胞への接着阻害効果を認めた. (4)10^<-4>MのCIMは,ヌードマウスに播種・形成したHSG腫瘍塊を縮小させた. (5)17例の腺様嚢胞癌患者の生検材料においてCYLDおよびNF-κB関連因子の発現を免疫組織化学的に検索したところ,CYLDは10例(58.8%)に,NF-κBは12例(70.6%)に,IκBaは13例(76.5%)に,IKKaは14例(82.4%)に,IKKβは4例(23.5%)においてそれぞれ発現を認めた.CYLDの発現が検出されなかった症例においては、CYLD遺伝子に何らかの変異が起こった可能性が示唆された.現在まで10例の腺様嚢胞癌症例についてCYLDの全20exonの遺伝子変異の検索を終えているが,変異は認められなかった.以上の結果から,NCAMを発現している腫瘍においてCIMの作用によりNF-κBの活性抑制,NCAMの発現低下が起こり,腫瘍死を誘導することが示唆された.
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