研究概要 |
これまでに,感染性心内膜炎患者血液より分離された株において,血清型不定のものを見い出し,それが血清型特異多糖抗原におけるラムノース主骨格に結合するグルコース側鎖の量が著しく低下していることに起因していることを明らかにした.さらに,その後これらの株に特異的な抗血清を作製し,新しい血清型k型を定義した.その抗血清を用いて200人の日本人小児口腔内から分離したS.mutans 200株を調べると4株がk型に分類された.一方,1980年代から1990年代に分離された約2000株のS.mutansの血清型を調べても,k型の株を検出することができなかった.このことは,k型株はごく最近出現した可能性を示唆している.また,グルコース側鎖の生合成に関わる遺伝子に抗生物質耐性遺伝子を挿入不活化した株およびk型の臨床分離株は,多型核白血球による食作用を受けにくいことを明らかにした.これらのことから,この型の株を保有する個体を同定することは,臨床的に意義のあることと考えられた.そこで,これまで分離したk型株において,既知の血清型特異多糖抗原の生合成に関与する遺伝子すべての遺伝子配列を特定し,S.mutans臨床分離株の大部分を占めるとされるc型株の配列と比較すると,rgpF遺伝子5'側350bpの領域にk型株に特異的な遺伝子配列が存在することを見いだした.その配列を利用して唾液サンプルから得たDNAを用いて,k型保有者を簡易同定する方法を確立した.この方法の感度は極めて高く,S.mutans k株にのみを特異的に検出する方法であることが示され,高ビルレンス株保有者簡易同定の一端を支える方法であることが確認された.
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