研究概要 |
感染性心内膜炎患者血液から分離されたStreptococcus mutansを分析すると,血清型不定の株が存在した.そこで,その表層多糖抗原を分析し,新規血清型κ型を定義した.κ型株は他の血清型株と比較して,う蝕原性は低いが,その抗原性の低下から,血液中で長期間生存が可能であることが示唆された.その後,κ型株において,多糖抗原をコードする遺伝子の全配列を決定し,κ型株に特異的な遺伝子配列を見いだした.また,その領域の配列を利用して,唾液サンプルからDNAを抽出しκ型保有者を簡易同定するシステムを構築した.当科を受診した小児を対象に検討すると,約5%がκ型株保有者であることが明らかになった. 次に,S. mutansの様々な表層タンパクを遺伝子操作により失活させた株を作製し,in vitroおよび動物モデルで病原性を検討した.その結果,主要な表層タンパクの一つとして知られているProtein antigen(PA)およびPAと相同性の高いGlucan-binding protein Cが,循環器疾患での病原性に関与する可能性が示唆された.さらに,バイオフィルム形成に関与するBiofilm regulatory protein A(BrpA)を失活させると,菌のレンサの長さが著しく増大し,白血球による貧食作用に抵抗を示した.また,血小板凝集能の増大も認められ,BrpAが病原性に関与していると考えられた. さらに,循環器疾患手術の際に摘出された心臓弁組織や動脈瘤組織からDNAを抽出し,PCR法にて口腔細菌種の存在を検討したところ,S. mutansの検出頻度が極めて高く,S. mutansと循環器疾患との関連が示唆された.
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