研究概要 |
歯周炎は臨床的には結合組織破壊と歯槽骨の吸収で、免疫組織学的には多数のB細胞・形質細胞の浸潤で特徴づけられるが、多数のT細胞も認められる。我々はそれらの一部は自己抗原を認識し、自己反応性の応答が歯周炎の病態形成に重要な役割を演じていることを明らかにした。近年、形態的・機能的に異なる様々なT細胞サブセットが免疫応答の調節に複雑に関与していることが明らかになってきた。そこで、歯周疾患感受性の決定に深く関わっていると考えられる歯周炎局所のT細胞に関して免疫学的・分子生物学的手法を用いて網羅的に解析した。 その結果、免疫組織学的検索から歯周炎局所に浸潤しているCD4陽性のT細胞の一部はCTLA-4とCD25を発現していることが明らかになった。このCD4^+CD25^+CTLA-4^+T細胞はregulatory T細胞のphenotypeであり、B細胞の浸潤が強くなるのに伴って比率の上昇が見られた。また、遺伝子レベルではnaturalregulatory T細胞マーカーとされるFOXP3、1L-10,TGF-βの発現が歯周炎組織で上昇していた。さらに、別の制御性T細胞集団であるNKT細胞も歯周炎における免疫制御に関与し、その機能はB細胞上に発現するCDld分子によって制御されていることが示唆された。 さらに、局所に浸潤している細胞の機能を詳細に検討するため、歯周炎組織から多数のT細胞クローンを樹立し、それらの遺伝子発現とCD4^+CD25^-T細胞の増殖に及ぼす影響についても検索した。ほとんどのT細胞クローンはTh1,Th2いずれのサイトカインおよびマウスにおけるnatural regulatory T細胞のマーカー分子であるFOXP3遺伝子を発現していたが、骨吸収に関わるIL-17,RANKLについては患者間で発現しているT細胞クローンの頻度に差が見られた。 これまでの歯周炎局所のT細胞が発現する受容体遺伝子の解析からは歯周ポケット内細菌叢の複雑さを考慮すると比較的限られた種類の抗原を認識することがわかっていたが、同じ受容体レパートリーを持つT細胞が胸部・腹部動脈瘤の組織からも検出され、歯周炎と動脈硬化症の関連についても示唆された。
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