本研究の目的は、糖尿病を発症し比較的初期にある患者への療養を支援するため、パトリシア・ベナーのケアリングの考え方を理論的前提とした実践モデルを開発し、そのモデルの有用性の検討を行うことである。 1.糖尿病患者へのヒューマン・ケアリングアプローチの実践モデルの開発 研究者らが行った8つの実践研究を一次資料として、メタレベルで分析し、メタ統合を行った。結果、知と行為の働きにとって基盤となる身体を主軸として、糖尿病患者の身体に根ざした知を引き出す看護ケア「糖尿病患者へのエンボディメントケア」を開発した。「あいまいな体験に輪郭を与える」「身体の理解を深める」「身体の信頼感を取り戻す」「新しい対処法(生活習慣)が身につく」の4つのコアとなるケアが明らかになった。 2.「糖尿病患者へのエンボディメントケア」の介入プロトコールの開発 プロトコールの構造は、ケアの態度、ケアする人の体の距離や高さなどの物理的な環境を含んだ姿勢、問いかける・説明をする・手の動きを含んだ動作といった行為、反応を捉える視点を含んだ働きかけで構成されており、基礎知識・必要物品・記録用紙を含めて開発した。「あいまいな体験に輪郭を与える」ケアの介入プロトコールを作成した。 3.「あいまいな体験に輪郭を与える」ケアの有用性の検討 初期の2型糖尿病患者5名を対象に本ケアを提供し、その有用性を事例毎に検討した。その結果、ケアの実践の中で自分の身体への関心を表した言葉や行為が生まれ、その患者が長年の生活体験の中で身につけた「身体の世界への住まい方」が明らかになり、患者の体験の輪郭に変化を与えることができるケアであることがわかった。
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