今年度は、認知症の高齢者と介護家族を対象にナラティブ・ケアを実施し、その効果を評価した。 対象者は、総合病院精神科外来受診中の認知症患者18人(アルツハイマー型10人と脳血管性8人)と引率の介護家族であり、主治医との時間調整を行い、外来診療室にて面接を実施した。これらの面接は、筑波大学の倫理審査により承認を受け、患者および家族に研究の説明と同意を受けて実施した。面接内容は、ライフヒストリー、生活内容と人間関係および相談したいことなどであった。面接所要時間は、患者に対しては30分から60分であり、家族に対しては60分から90分であった。家族の介護期間は6ヶ月から36ヶ月までであった。患者の精神機能については、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)で7-10点以下であり、会話を持続させることの困難性があった。そのために30分以内の面接時間となった。同一対象者に平均2回の面接を行った。会話をデータ化し、内容分析を行った。患者については、「過去の懐かしい人」と「心地よい体験」の語りに集約され、介護家族に対する語りが少なかった。患者と介護家族との交流では、厳しい現実と向き会うことが多く、患者は介護者に対して、「叱責される」、「口うるさく注意される」、「罵られる」、「ぽかんと殴られる」などを「辛さ」として表現していた。一方、介護者の反応は、介護期間による差異がみられた。6ヶ月から2年以内では、患者の病状と精神機能の衰退に戸惑い憤りを表現することが多かった。近隣や親族からの孤立などを体験する介護家族もあり、「家族だけで頑張らなければ」という意思と孤独さとで専門家による支援の必要な時期であることが示唆された。また、2年以降では、家族の介護方針も凡その見通しが立ち、施設入所か自宅で過ごすかの選択に対する回答が導かれて対応法を見出していた。特に、患者と家族の双方が「孤独」を体験している時期には、ナラティブ・ケアが重要であることが明らかとなった。
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