研究課題/領域番号 |
16401003
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鐸木 道剛 岡山大学, 文学部, 助教授 (30135925)
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研究分担者 |
木戸 雅子 共立女子大学, 国際文化学部, 教授 (10204934)
眞鍋 千絵 東北芸術工科大学, 芸術学部, 助教授 (10337222)
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キーワード | 国際研究者交流 / セルビア・モンテネグロ / 美術史 / 中世史 / 壁画 / イコン / キリスト教 / ビザンティン帝国 |
研究概要 |
平成17年度9月の洗浄作業中の壁画調査時には、広範囲に後世の上塗りが除去され、部分的に新たな補彩が施されていた。技法的に特筆すべきは、藁を細かく砕き漆喰に混入して漆喰層の貯水能力を高めるこの地域特有の漆喰組成である。またフレスコ技法で描いた上に、石灰を媒材とするセッコ技法(耐水性に乾燥)で細部が描かれているため、洗浄作業における水性溶剤の使用がオリジナルの壁画素材を溶解する危険が小さく、修復処置を安全に実施できる前提となっている。今後の課題は、北側壁面の水の浸透による損傷要因を改善し、修復後の保存状態を安定させることと、オリジナル絵画層とその欠損部への新たな補彩を識別するための正確な処置記録の作成である。 今回の発見で内容的に重要なものは、(1)身廊最上部の一連の預言者の半身像とその巻物の銘文(2)イコノスタシス上部のヴォールト下部に二段に配された「キリスト伝」の一部分、南面に「弟子の足を洗うキリスト」「キリストの降誕」図、北面に「ペテロの否認」、「キリスト昇架」図。(3)アプスのコンクの縁をなすアーチ部分の「ペンテコステ」図である。(1)は細部写真をもとにセルビア・アカデミーで正確な書き起こし図を製作中。(2)は人物像に特徴があり、動きのある線によるハイライトによる印象的な顔の表情が、様式化されたコムネノス朝の様式を髣髴とさせる。(3)は最上部に白い布を手にした「大地」のシンボルと思われる人物が現れたことで、「ペンテコステ」図と見られるが、本来最下部にあるべき「大地」が最上部に描かれ、その下にメダイヨンの使徒たちが並べられているため本来の「聖霊の降臨」とは図像学的に異なる。アプシスとナオスを繋ぐ場所に配置している点は伝統に従いながら、図像自体は変更を加えているところにビザンティンからポストビザンティンへ聖堂装飾の伝統の変化の軌跡を辿るための端緒を得ることができよう。
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