研究課題
シリア東北部、ハブール平原にあるテル・セクル・アル・アヘイマル遺跡の現地調査を実施し、回収した標本分析をもとに、北メソポタミア農耕牧畜社会の出現、発展経緯について調べた。発掘は2006年8月から9月にかけて実施した。今回が7シーズン目である。先土器〜土器新石器時代の堆積がもとも分厚く保存されているC区を対象として、200平米を発掘した。土器新石器時代初頭の堆積からは小形の方形部屋でできたいわゆる三列構成の建物が見つかった。類例は東シリアから北イラクの土器新石器時代遺跡にみられる、ハブールの集団との文化的類縁関係が強く示唆された。一方、先土器新石器時代の堆積からは、大部屋建築とよばれる独特な建物が検出された。これは南東トルコ方面との類似を示す。すなわち、当地の初期農耕民の文化的類縁関係は時期別に異なる。これは、北メソポタミア初期農耕民が南東トルコ方面に起源し、しだいに南部平原に拡散したという仮説を支持する証拠となる。土器、石器、さらに動植物遺存体などの出土遺物の分析も実施した。大半は現地で研究したが、一部の理化学分析用サンプルは持ち帰り、解析を進めている。もっとも興味深い成果が得られつつあるのは動物骨分析である。先土器新石器時代には、ほとんど同年齢のヤギ・ヒツジが集中して出土する広場と、ガゼルを中心とした野生動物を多量に産出する広場とがあることがわかった。新石器人による宴会等での家畜大量消費が示唆される一方、野生動物も食料経済の重要な一部をになっていたことがわかる。動物消費の季節性などを検討し、初期農耕社会の経済的、社会的活動の構造を詳細に調べる研究が進んでいる。
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