イスラーム陶器は博物館に収集された後、20世紀初からヨーロッパ人研究者によって論文と概説本が著された。研究当初からエジプトのフスタート遺跡(カイロ)出土品が資料として取り上げられ、一方でイランの各地から集められた陶器がヨーロッパの博物館に収められて研究資料となった。20世紀後半にイギリス人によりイスラーム陶器概説本が書かれ、現在まで定説となっている。しかし、遺跡出土品にはさまざまなものがあり、考古学の研究成果を使用したイスラーム陶器の論文と実態に基づく概説本が必要である。 こうした研究状況を背景に、今年度は地域社会のなかで遺跡出土のイスラーム陶器を研究することを目的に、フジェイラ町跡とコールファッカン町跡の2カ所の発掘を実施した。フジェイラ町跡は18〜19世紀のイスラーム陶器が出土し、地方農村のイスラーム陶器の使用状況と出土品の実態を明らかにできた。コールファッカンは14〜15世紀の港町跡を発掘し、中国陶磁器や東南アジアの陶磁器とともに出土するイスラーム陶器を資料化した。 以前に発掘したジュルファール遺跡の性格を港町としてとらえる研究を行い、大量に出土した14〜15世紀のイスラーム陶器の整理を継続している。白濁釉陶器については整理が完了した。ルリーヤ砦出土のイスラーム陶器については、13世紀末の基準資料となることを提示した。これらの研究成果は学会発表を中心に公表しているが、それらは学会誌に掲載する予定で、投稿中の論文もいくつかある。
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