研究課題/領域番号 |
16401018
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
沼本 宏俊 国士館大学, 体育学部, 助教授 (40198560)
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研究分担者 |
松本 健 国士舘大学, イラク古代文化研究所, 教授 (00103672)
岡田 保良 国士舘大学, イラク古代文化研究所, 教授 (70138171)
新井 勇治 国士舘大学, イラク古代文化研究所, 共同研究員
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キーワード | アッシリア / 楔型文字 / 粘土板文書 / タブレット / シリア / テル・タバン / タビテ |
研究概要 |
本研究は世界最古の帝国"アッシリア"の西方への進出拠点として繁栄した古代王国"タビテ"、つまりシリア北東部にあるテル・タバン遺跡の発掘調査の成果を通して、未だ不明瞭なアッシリア帝国の全容解明への貢献を目指している。 調査期間:本年度の発掘調査は8月から10月の2ヶ月間を予定していたが、シリアの入国ビザが申請後4ヶ月経って発給されたため調査時期と期間を大幅に変更した。調査は17年1月19日から2月25日まで期間を短縮し行った。当初、発掘調査参加を予定した研究分担者2名は日程上都合がつかず、調査に参加することができなかった。 研究成果:本年度の調査は過去三回の調査で計71点の楔形文字資料が出土した中期アッシリア時代(前13-11世紀)の層位に焦点を置き、新たな文字資料と建築遺構の発見につとめた。遺跡の西側斜面に二つのトレンチ(4,5)を設定し発掘を行った。トレンチ4では7つの層位と残存長約10m、幅5m、高さ約4mの巨大日干煉瓦造の壁跡を確認した。この壁跡は以前、調査した発掘区で確認した巨大壁と一連の建造物で、宮殿や神殿等の主要建物の回りを囲んだ壁であったことが明らかになった。トレンチ5では煉瓦敷きと赤彩の壁面を持った日干煉瓦建物跡の一部を認めた。注目すべきは煉瓦敷きの中から2点の楔形文字が刻まれた煉瓦が出土し、その記述内容からこの建物跡は前12世紀中頃に在位したタビテの歴代の王の一人"エテル・ピー・アダト"の宮殿であったことが判明した。本調査の最大の成果は、この宮殿に付属する小部屋から楔形文字が刻まれた粘土板文書が50点以上出土したことである。これらの文書の全てが小型で中には封筒入りの書簡もあることから、王宮の行政文書庫であった可能性が強い。これほどの数の粘土板文書の発見は、50年におよぶメソポタミア地方における邦人の調査では初のことである。中期アッシリア時代は史料が数少なくその勢力範囲、支配体制、社会構造等は不明瞭で、アッシリア史の中でも暗黒時代と呼ばれており、世界中の研究者が今回の文書庫出土の粘土板文書の記述内容に注目している。現在、粘土板文書はダマスカス博物館に保管され、清掃、保存処理が行われており、この夏にも解読のため日本人研究者を現地に派遣する予定である。解読が進み学会待望の最新情報を迅速に内外に提供すれば、アッシリア史解明に大きく貢献することができる。本研究の歴史考古学的調査ならではの醍醐味は、楔形文字で記された史実を発掘調査によって実証することにつきるが、こうした面でも今回の粘土板文書の発見は国内の楔形文字研究者の活性化を促し、今後の西アジア古代史研究の発展に寄与するであろう。
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