研究課題/領域番号 |
16401018
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
沼本 宏俊 国士館大学, 体育学部, 助教授 (40198560)
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研究分担者 |
新井 勇治 愛知産業大学, 造形学部, 助教授 (20410855)
山田 重郎 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 助教授 (30323223)
松本 健 国士館大学, イラク古代文化研究所, 教授 (00103672)
岡田 保良 国士館大学, イラク古代文化研究所, 教授 (70138171)
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キーワード | 考古学 / アッシリア / 粘土板文書 / 楔形文字 / シリア / テル・タバン / メソポタミア / 中期アッシリア時代 |
研究概要 |
本年度の研究は主にシリアのテル・タバン遺跡の発掘調査と同遺跡から出土した粘土板文書の解読を行った。 1.テル・タバン遺跡の発掘調査:前年度の調査で約200点の中期アッシリア時代の粘土板文書が出土した王宮の文書保管庫跡と推測される日乾煉瓦造の部屋の発掘を行い、新たに31点の粘土板文書を発見した。部屋の構造や文書の出土状況から、文書は棚もしくはニッチ状の施設に置かれ保管されていたことが明らかになった。この部屋の北側からは幅3.5m、残長約4mの中庭状の焼成煉瓦敷きを検出、さらに煉瓦敷きに伴う日乾煉瓦造の壁面には壁画の痕跡と考えられる赤彩、黒彩、白彩が残存していた点、そして壁の基礎部から王名入りの焼成煉瓦が出土した点から、宮殿状の一連の建物跡であったことがほぼ確実になった。最大の成果は土器焼き窯の内部から古バビロニア時代(前16〜17世紀)の焼成粘土板文書が10点出土したことである。これらの中で7点は小型(7cm角以下)で潰れた甕と一緒に出土したことから、文書を長期間保管する目的で甕の中に入れ焼成したと考えられる。粘土板文書が土器窯から出土した例や古バビロニア時代の粘土板文書がハブール川流域の遺跡から出土した例がなく貴重な資料である。 2.粘土板文書の解読:前年度の調査で出土した約200点の中期アッシリア時代の粘土板文書はダマスカス博物館に保管され、そのうち約70点の保存修復作業は既に完了しており、これらの文書の解読が文献班(山田、柴田)により行われた。文書はアッシリア帝国に従属したマリ王国の首都"タベトゥ(タビテ)"の宮廷の行政記録で前13世紀後半から12世紀前半に年代付けられ、中期アッシリア時代の大王シャルマネセルI世やトゥクルティニヌルタI世の治世に相当することが判明した。文書に登場する"タベトゥ(タビテ)"の王は、アシュル・ケタ・レシェルとその息子アダト・ベル・ガッペが大半を占め、文書の6割は彼らの王宮の収支記録で衣類、穀物、家畜、金属器、武器等の物品の搬入先と搬出先の町、人名等が記録されている。他は王室の政治書簡、私的契約文書、売買契約文書などであった。最も注目すべきは、シャルマネセルI世一行がヒッタイト帝国の副首都カルケミシュに行幸した際に、饗食に献上された羊が記録された文書である。この文書は当時敵対関係にあったヒッタイト帝国にアッシリア王が赴き首脳会談を行った可能性を示唆する前例のない新資料である。 日本の調査隊による初の大規模な粘土板文書の発見と本格的な解読となった本研究であるが、邦人が楔形文字資料を発掘し邦人研究者が解読するという学会待望の考古学と文献学の共同した研究が初めて始まったことを特筆したい。これまで日本は楔形文字使用期の歴史考古学の研究領域では欧米諸国の後塵を拝していたが、欧米の調査隊から遅れること100年、やっと彼らと同じ土俵に立つことができたという面で、本調査研究は画期的で今後の西アジア古代史研究の活性化に大きな貢献をしたといえる。
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