研究課題
基盤研究(B)
本研究は、スリランカが停戦協定の締結から破棄、そして戦闘再開へと激動した6年間に行われた。その間、スマトラ沖大地震の津波によっても紛争地域沿岸が多大な被害を受けた。停戦協定により平和への期待を高めた国際社会は多大な支援を行い、日本政府やNGOも積極的に復興支援と平和構築に参加した。本研究では、スリランカ研究を長年行ってきた足羽與志子(代表:文化人類学)と中村尚司(分担者:開発経済学)がともに、現地での調査経験やネットワーク蓄積を駆使し、現状把握と分析を進め、学術的中立の立場から平和構築支援に関与した。足羽は二度の選挙監視参加により政治の最前線で参与観察を行い、またルフヌ大学等の協力を得て南部とコロンボ郊外の住民の平和意識調査を行った。紛争地域では地域リーダーを中心に調査を行い、平和への文化的支援の重要性を確認した。中村は紛争地域の漁民、中近東でのスリランカ移民労働者の調査、津波の被害への復旧支援等、状況の変化と必要性の高さに応じて最前線で可能な限りの調査を行い、経済支援の複合性の必要を指摘してきた。また研究成果を随時、両国の官・学・民と共有すべく、両国において合計4回の公開シンポジウムをコロンボ大学、国際交流基金、一橋大学等の共催により行った。流動的かつ緊張の高い困難な状況下で研究計画の調整を行いつつも予定以上の成果を得たことは、両者の充分な現地調査実績と知見に寄るところも大きい。「平和」が国内政治闘争の道具となった現実において、国際支援も政府とLTTEが要請する経済支援に偏重してしまい、メディアや文化支援による民族間の対話増進や、平和への価値の共有を促す平和意識基盤形成の支援が欠如していたことが、平和構築失敗の一因として指摘できる。本研究は、ポスト紛争地域での参加型調査研究という有意義で希有な研究であり、そのデータは非常に貴重な紛争解決・平和構築の記録でもある。
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