中国の北京、上海および日本で実施したアンケート調査、人民日報と朝日新聞の内容分析を通して、中国のナショナリズムに関して次のようなことが明らかになった。 (1)新聞やテレビ報道への接触量はナショナリズム意識と統計的に有意な関係は見られない。 (2)インターネット接触が、反日意識を高めるという影響も認められない。 (3)共産党が宣伝をしている愛国主義的英雄は中国人の間に浸透しており、特に高齢者にとってそうである。しかし、愛国主義教育の効果については明確な証拠は得られなかった。年齢が低いほど、また学歴が高いほど愛国心が低い傾向がある点も、愛国主義教育の効果に疑問を投げかける。 (4)愛国心と自民族中心主義は、異なるナショナリズム変数として区別する必要がある。前者は生活満足度と正の相関があるのに対して後者は負の相関があり、両者には異なる心理的なメカニズムが背後にあることを示唆している。 (5)中国では、若者の方が高齢者よりも反日意識が弱い。日本でも同様に若者は反中意識が弱い。 (6)上海の反日デモにおいて、デモ関連の情報は、新聞やテレビではなく、インターネットや携帯電話によって伝えられた。 (7)ナショナリズム意識の心理的背景として、中国についての自信や中国文化への自信があるようである。 (8)2005年の新聞報道は、日中関係を歴史認識との文脈で多く取り上げている。 (9)日本人の反中意識も、メディア接触の量によっては説明することはできない。 (10)日本では、高齢者の方が反中意識が高いが、性別によって年齢との関係は大きく異なる。 今後はこれらの分析を精緻化するとともに、中国または日本における調査データの分析にとどまることなく、時系列変化を考慮に入れた日中間の相互的な影響過程をモデル化することが必要であると思われる。
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